緊急時など通常の遺言方式では遺言を残せないとき、民法で定められた特別な方式があります。
■一般危急者の遺言
病気やけがなどで突然遺言者が危篤状態に陥ったとき、証人が3人以上の立会いのもとならば、
遺言者が口述で遺言を残すことができます。
証人についての条件は公正証書遺言のときと同じです。
まず遺言者は証人のうち誰か一人に遺言内容を口授します。
口授を受けた証人はそれを筆記し、遺言者と他の証人に読んで聞かせます。
遺言者と他の証人が筆記内容を確認し、署名押印します。
このように作成された遺言は、遺言の日から20日以内に、証人か利害関係人によって家庭裁判所に請求し、
確認をとらなければなりません。
家庭裁判所では遺言が本当に遺言者の意思に基づいているかどうかを確認します。
確認されてからはじめて、この遺言の効力は発揮されます。
■難船危急時の遺言
船舶で遭難にあい、死亡の危機が迫っているとき認められる遺言方式です。
緊急事態でもあるので、一般危急者の遺言を簡略したものになっています。
遺言者は証人2人以上の立会いのもとで、遺言内容を口述します。証人はその趣旨を筆記し、署名押印します。
書かれた遺言は家庭裁判所に請求して確認してもらわなければなりません。
この場合、家庭裁判所への請求期限は決まっていません。
遠洋で遭難することもあるからです。
ただし、「延滞なく」とありますから、証人が救助されるなど家庭裁判所に向かえるようなら、
速やかに請求することが望ましいです。遺言者が運良く救助され、
普通方式の遺言書を書けるようになった場合、6ヶ月を過ぎるとこの遺言の効力はなくなります。
■一般隔絶者の遺言
伝染病で交通手段を遮断され、隔離されてしまったときに残す遺言方式です。
かならずしも死期が迫っているわけでなく、自筆証書遺言を残すことができるなら、その方がいいのですが、
体力が落ちていたり、交通を遮断されていることで、
公正証書遺言の方式を使えないというときに有効です。
遺言者は警察官1人と証人1人以上の立会いのもとに、遺言を残すことができます。
証人は公正証書遺言と同じ規定になりますが、
この場合医師や看護士に頼むのが無難でしょう。
ここでの遺言は遺言者、警察官、証人それぞれの署名押印が必要です。
遺言者は病気が回復して、普通方式の遺言が書けるようになって6ヶ月以上生きていた場合、
ここでの遺言の効力はなくなります。
また、地震や洪水などで交通手段が遮断されているときや、
刑務所に入っているときにもこの方式に準じた遺言が認められています。
■船舶隔絶時の遺言
航海によって、長く帰ることができないとき認められている遺言方式です。
遺言者は船長か事務員1人と証人2人以上の立会いのもと遺言を残すことができます。
遺言書には遺言者、船長または事務員、証人の署名押印が必要です。
この場合も普通方式の遺言を作成可能になってから6ヶ月を過ぎると効力を失います。
また遺言者が外国に滞在していて帰ってこられないときは、
その国にある日本領事館の駐在員に公証人のかわりを依頼することができます。
遺言者は、公証人が立会うべき公正証書遺言や秘密証書遺言によって遺言を残すことができます。