掛布選手のコメントです。文章的に自分に酔うタイプの人っぽいです(笑)。 でもコメントを見ていると、テレビで見せているあの満面の笑みが浮かんできます。
ありがとう−。
ユニホームを脱いだ。いつもは無造作に、洗濯袋へ放り込む。だけどきょうは違う。 きっちりたたんだ。祝勝会で浴びたビールがにおう。 背番号「31」よ!ゆっくり語り合おうじゃないか。
終わったぜ。日本一だよ。良くやった。お前は、最後まで輝いていたぞ。 日本一の阪神タイガースの、日本一の四番打者だったぜ−。
正直な気持ちを、ユニホームに語りかけた。宿舎に帰って、やっと実感がわいた。
最後の打席が左越え本塁打。「わ!!これで日本一なんだぞ」と、自分の中で何かがはじけた。 右手を天に向かって突き上げて、No.1を誇示するポーズを、いつの間にか取っていた。
どんな本塁打でも、黙々と走ってきた。あんな派手な格好は初めてだ。なぜだか分からない。 日本シリーズの舞台が、そうさせたとしか思えない。
別の世界だと思っていた。日本シリーズは、僕のいない世界だった。 日本一になってことは、西武に4勝した結果だ。 それより日本一を語れる世界に入れたことが、うれしい。
西武との試合は、毎日が”変な感じ”だった。緊張していたのかもしれない。 デーゲームの連続が、そう感じさせたのだろうか。
未知の世界で試合をしたのだ。負けるのは嫌いだ。勝負事は勝たねばならない。 その思いと、日本全国に注目されて試合する喜びが、複雑に絡み合っていた。
勝った瞬間、やはりマウンドに走った。吉田監督の胴上げ。隣を見たらカズさん(山本)がいた。 「カズさんを上げよう!」と夢中で叫んでいた。
西武の印象。試合後に広岡サン、どんなコメントをしていたのだろう。 まさか「予定どおりでした」とは言ってないだろうね。 突っ張ってたんだろうなあ。監督として、一つのやり方だろう。嫌いじゃないよ。 もっと突っ張ってほしいね、これからも−。
感激ということだけで言うと、ペナント優勝の方が大きかった。 キャンプからの毎日は、130試合をどう戦うかだけだった。 まさか136試合もやるとは思いもしなかった。 シリーズのことを考えたのは、セ・リーグ優勝の決まった日が、初めてだった。
終わった−いまはその実感の方が強い。 ユニホームに、しばらくのサヨナラを告げて、ゆっくり休みたい。 それからはもう、86年のスタートだ。
86年の始まりも、やはり85年と同じだ。日本一という”土台”ができただけ。 周囲の目が日本一を見る目に変わっても、やるのは僕ら選手だ。
すべてを出し尽くした。悔いはない。ファンの皆さんも、しばらくゆっくり休みましょう。