ここでは、トラ番記者の記事を紹介したいと思います。 ある意味、記者はタイガースに対する熱い思いはひとしおだと思います。 その記者がどのような記事を書いていたのかを見ることによって、 当時を熱く振り返られるのではないかと考えています。
もう3度目の胴上げだというのに、ちっともうまくなってない。青空に放り投げた吉田監督の体が、 グルっと1回転してしまったじゃないか。 慣れてないから、阪神らしい。2リーグ分裂後、初めて味わう日本一の喜びだ。思う存分かみしめるといい。
土井ヘッドコーチ、ゲイル、掛布・・・。誰が決めたわけでもないのに、自然と胴上げの順番が決まっていく。 「次は、カズさんだ」と掛布が叫んで、ユニホーム姿の山本も舞った。 涙のない、喜びだけが渦巻く胴上げの中で、山本は確かに泣いていた。 「いままで、ダメトラなんていわれてきたチームなのに…」。 そういう北村の目からも、自然と涙があふれ出てくる。
「キャンプから、みんなが一丸となって野球に取り組んできた。その結果が優勝につながったのだと思っています。 亡くなられた中杢社長にも、日本一の報告をしたい。 この喜びを、選手やファンのみなさまとともに分かち合いたい気持ちです」
吉田監督のことばに、ファンは歓呼で応えた。 次々と選手の名を叫ぶ声は、素晴らしい演奏会のあとの、カーテンコールのようだ。 ファンを魅了し、たんのうさせ、12球団の頂点に立った戦士たちに、 どれほどの称賛の声を贈ろうとも十分すぎることはない。
今季の締めくくりで、阪神らしい野球ができた。それが、なにより嬉しい。 1回、いきなり飛び出した長崎の満塁弾。 2回に真弓の一発で追い打ちだ。爆発力を売り物に、ここまで戦ってきた打線。 「きょう、一気に決めるぞ」と並木打撃コーチがハッパをかけるまでもなかったようだ。 最終回に掛布が左翼へトドメの2ラン。 ベースを回る時、スタンドに向かって何度も手を振ったのは、テレ屋の掛布が見せた、 とびきりのファンサービスに違いない。
「満塁ホーマーなんて3年前に打ったきり。ボクのホームランより真弓の一発でムードが盛り上がったね。 阪神は負けてもクヨクヨしない明るいチーム。ぼくもそれに引っ張られた」(長崎)
「野球をやってよかったという気持ち。いまは、ホッとしている。 しばらく、のんびりと休みたい気持ちですよ」(掛布)
全員一丸、を合ことばにここまでやってきた。どんな時でも、吉田監督の「挑戦」という姿勢に変わりなかった。 キャンプの頃、優勝できると本気で信じていた選手は少ない。 一つ勝ち二つ勝ち、「このオッさん、本気で優勝するつもりや」(岡田)と思い始めた時、 和が生まれて、本当の一丸になれた。
「いまオレは、全身全霊をタイガースのために捧げている。そういう自分をほめてやりたい気持ちやで。 そやから、人になにをいわれても、なんも怖いことないのや」
ある時、吉田監督が篤子夫人にもらしたことばだ。一度監督を失敗し、阪神を日本一につけるために戻ってきた男。 選手に勝負哲学を植えつけ、1年目で”夢”を実現させた。
優勝決定後の記者会見で「来年も再来年も挑戦ですワ」といった。同席した掛布が「そうです」と応える。 あくなき理想を掲げ、夢を追い求める猛虎たちに、乾杯。日本一、おめでとう。