名字の名前は、私たちの日常生活に欠かせない身近なものです。 ところが、その正体はきわめてわかりにくいので、まずは日本の名前の特色をみていきたいと思います。
名前は、平安時代末に発生し、徐々に広まっていったものです。 しかし、それが公式の呼称になったのは、明治時代にヨーロッパ風の戸籍制度を取り入れた時点です。
江戸幕府成立以前は、名前を名のることは武士だけの特権とはされていませんでした。 そして名前は、それをもつ家の由来をあらわすものとして重んじられていました。 ところが、江戸時代に名前のそのような機能が薄れ、さらに、 人々が名字と家の由来との関わりをほとんど意識しなくなったのが、明治8年(1875年)に出た「苗字必称令」でした。
戦国時代ごろまでの人々は、自家の名前のいわれを代々語り伝えていました。 ですので、同じ地域に住む者であれば、相手の名前を知ればその出身をほぼつかむことができました。 ところが現在では、名前から出身を結びつけて考える人はまずいないと思います。 それは、江戸時代に庶民の屋号が適当に変えられたうえに、 「苗字必称令」のときに名家の名前を勝手につけた者が多くいたためです。 それゆえ、現在の名前は家の由来を表すようでもあり、そうでもなさそうな、あいまいなものになってしまいました。
名前がつけられた経緯だけでなく、種類の多さも日本の名前の特色の1つです。 一般的には30万近くとも言われています。 これは、自家の特殊な名前を大事に伝える家が多かったことを意味しております。 ところがそんなに膨大な名前があるにもかかわらず、現在の日本人の大部分は、 鈴木、佐藤、田中などのありふれた名前が非常に多いのも事実です。