住基ネットは自治体の電子化へ向けた第一ステップだという。 では、その先にある「電子自治体」とはどんな姿をしているのか。先進地・岡山市を訪ねた。
■電子認証局
同市は二〇〇一年七月、総務省の実施する「電子自治体推進パイロット事業」に名乗りを上げた。
全国に散らばる八市町村と役割分担し、インターネット上での電子申請や届け出の標準システムをつくる。
同市は指名業者登録と道路占有許可申請の二分野を受け持つ。
これに先立ち同市は二〇〇〇年、自治体で初めて独自の電子認証局を構築した。インターネット上での本人確認のシステムだ。 市が発行した「電子証明書」と、本人しか知らない「暗号」が一致して初めてネット上の申請窓口にたどりつける。
昨年八月から同局を使った介護保険の申請などの試験運用が始まった。 モニターになった介護サービス事業者「岡山市ふれあい公社岡山ふれあいセンター」は、 約五百人の利用者の要介護認定の代行申請やケアプランを作成している。
膨大な事務作業を抱える介護事業者にとって、市役所の窓口へ行かなくてもパソコンの画面上で申請ができたり、 要介護認定の結果がいつでも検索できたりするのが当面のメリットになる。だが、担当者は「今のところ実感はない」という。
法律で義務づけられた書類の添付や、仮保険証の受け取りなど、窓口へ出向いてのやりとりは残る。 パソコンの操作も厳重なセキュリティー機能が働く分、時間がかかるからだ。「利用者のメリットとなると、なおさら見えてこない」
申請を受け付ける市介護保険課は「膨大な個人データを有効に活用しようとすると、保護が難しくなる」と明かす。 ネットワークが生きるためには、より多くの事業者が参加して情報を共有する方がいい。 しかし個人情報保護条例は、ネット上でさらされる個人情報の保護にまで追い付いていないからだ。
「実験段階で、できるだけ問題点を洗い出したい」と、同市システム企画課の担当者はいう。 「ただし、標準化システムができても、結局は各自治体が地域をみつめて独自の視点で調整し直さないと、生きたシステムにはならない」とも。
■道具の一つ
岡山市の萩原誠司市長は旧通産官僚。その指示で、国のIT(情報技術)予算を次々と取り込む。
IC(集積回路)カードに、電子マネー、病院診察券、スポーツクラブ会員券など官民の複数の機能を載せて技術的な実証をする「IT装備都市研究事業」、 電子カルテや地域連携システムの有効性を検証する「医療ネットワーク化推進事業」も予定する。
「目指すのは市民が自発的に参加して恩恵を実感できる電子自治体」と市情報政策課の担当者。
ただし、こうも言い添えた。「ITは市民と市政をつなぐ道具の一つで、すべてではない」