住民票写しの発行コストはいくらか。尼崎市が昨年十二月に公表した事業別決算評価書にそんな一項目がある。
住民基本台帳業務のコンピューター経費や人件費を合算し、住民票など証明書類の発行総数三十四万枚で割ると、一枚あたり千九百四円。 ちなみに発行手数料は一枚三百円となっている。
住民基本台帳業務の本来の目的はデータの把握だ。担当者は「写しの発行数で業務を評価していいのかどうかは別にして、 手数料以上にかかるコストに関心を持ってほしい」と話す。
では、住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)の稼働後、コストはどうなるのか。
■年間380万枚
総務省は住基ネットの目的に「行政の効率化」を挙げる。「数年のうちに自治体の窓口事務処理は縮小されるはず。
紙の住民票写しを減らすことが、まず目標になる」
兵庫県内の八十八市町が発行した住民票の写しは昨年度、計約三百八十万枚に上る。県民一人あたり〇・六九枚。 住基ネット後はどうなるか。総務省に問うと、「示せる推計がない」という。
では何をもって「行革」というのか。
二つの方向が考えられる。一つは写し自体が不要になること。今年八月から、児童手当の支給、不動産鑑定士の登録に写しの添付がいらなくなる。 だが、市町側の予想は「行革になるほど発行が減るとは思えない」。運転免許試験の受験時や不動産取引など住民票写しの需要は残るからだ。
もう一つは自動交付機の普及。伊丹市は一九九一年、証明書類の自動交付機を全国で初めて設置した。 今、住民票の写しの二割が機械で発行される。交付機用のカードは印鑑証明以外は無料。磁気カードなので原価が安い。
住基ネットになると、IC(集積回路)を埋め込んだ専用カードができる。 総務省は、このICカードを使い、伊丹のような交付機での自動発行を想定する。ただしカードの値段は一枚約千円。
だから大半の市町は冷ややかだ。「交付機に投入する資金がない」「住民票のために有料のカードを市民が買うかしら」と。
■見通し不透明
再び尼崎市の評価書。住基業務への取り組みは今後も怠りなく進める。が、その一項目、「コストの今後の方向性」は「一定」。
つまり「変わらない」という意味だ。
「国が言うように、何年か後、役所の窓口係はいらなくなるかもしれない」という予感は、担当者にもある。だが、道筋は見えない。 その良しあしを見極めようもない。八月五日、住基ネット始動。確かなのは、その期限だけだ。
住基ネットはどんな影響を及ぼすか? 質問に対して彼は、「期待していない。だから落胆もしない」と言った。