四百億円。国が公表している住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)の構築費だ。 ただし、システムの現場を担う自治体職員の多くは冷ややかだ。それで収まるはずがない、とみている。
■バラ色への苦笑
住基ネットは、約三千三百ある県、市町村を専用回線で結び、十一けたの番号を割りふった全国民のデータを中央センターで管理する。
年末、総務省から全国の市町村に、その住基ネットの広報記事のひな型が初めて届いた。
しかし、兵庫県内の市町での評判はよくない。たとえば、ひな型には「各種行政手続きの住民票の写しの添付が不要となります」とあるが、 すべて不要になるわけではない。独自の広報を検討する市の担当者は苦笑した。
「ひな型には省令で決まってないことまで書いてある。バラ色に書いて、あとで苦情の応対をするのは私たち」
■二つの顔
全国市長会も一九九七年、住基ネットの整備推進を要望している。しかし今回取材した各市の担当課でそのことを知る職員は、ほぼ皆無だった。
むしろ市町にとっての住基ネットとは、九九年に改正住基法が国会で成立し、突然、国から義務付けられた制度、でしかない。
「国家統制」との批判を意識してだろう。総務省はしきりに「国が管理する制度ではない」と強調する。 確かに形は「地方公共団体の共同システム」。全国民のデータが集約される中央センターも国の機関ではない。
どこが生みの母なのか、あいまいなままに八月へ向けて準備が進む。
■経費の虚実
で、冒頭の「四百億円」に戻る。
国は「予算も地方財政でやっていただくのが基本」という考えだ。 地方交付税交付金で自治体を支援するが、対象はネット構築の標準部分の経費に限られる。四百億円はその経費の全国合計額なのだ。
各市町は既存システムの大掛かりな改修に迫られる。これは地方交付税の対象外だ。たとえば神戸市。 国の概算表では政令指定都市への地方交付税は計約六千七百万円。しかし同市は、住基ネット構築に一億四千五百万円を見積もる。 既存システムの充実を図ったことにもよるが、地方交付税のざっと二倍が必要というわけだ。
ある市の担当者はこう言い切った。「四百億円でネットは動かない。実際には二〜三倍かかるだろう。一千億円を超えてもおかしくない」
今月中旬、ネットの稼動実験が始まる。 住民にほとんど知られていない不安、どれだけ経費がかかるか分からない懸念を抱え込んでのスタートラインだ。