一般の夫婦と同じように、不倫関係も一方の死で終わることがある。そこには、不倫関係ならではの問題がある。
内縁の妻の子供は非嫡出子であり、父親の認知を受けても、父親の遺産に対する法定相続分は嫡出子の半分となり、
法律上不利な扱いを受ける。
また、内縁の配偶者は相続人ではないので、遺産分割に関与できない。
現実には、家庭裁判所の遺産分割調停に「利害関係人」として参加する方法が取られている例もあるが、
調停に参加する権利が法律上保障されているわけではない。
どのようにすれば、不倫相手とその子供に財産を残すことができるだろうか?
■生前贈与で着実に
まず考えられるのは、自分が生きているうちに相手に財産を贈与することだ。一般的に「生前贈与」ともいう。
たとえ公序良俗に反する不法原因給付といわれても、自分の死後、愛する不倫相手に資産が残るのであればそれでいいと思ったら、
生きているうちに贈与してしまうことだ。もっとも、多額な贈与には贈与税がかかり、
不動産の場合には各種税金も発生するので税理士と相談する必要がある。
この贈与税であるが、きちんと申告しておけば、のちのち大いに役立つことになる。
というのも、素人同士の贈与の場合、贈与契約の書面をつくらないことが多いので、
贈与者が死亡した後に、相続人から「勝手に預金の名義を書き換えただけの横領だ」といった主張が出ることも多い。
こうしたトラブルになった場合、裁判で本人尋問が行われても水掛け論になってしまうし、
また「もらったというなら贈与税は払ったのか?」という質問は必ずされる。
少額の贈与税が発生するような贈与を毎年計画的に行い、
贈与税の申告書を残しておけば、贈与の存在の立証がきわめて容易になる。
不倫相手との間に子供がいる場合には、子供を認知しておくほうがいい。
養育費を支払うことは法律上の義務にかなう正当な行為なので、明らかに過大な給付でないかぎり、
これは公序良俗に反することにはならない。
家庭裁判所の調停をつかって子供に対する養育費を取り決め、
月々の給付額、特別な名目の支給額(入学金・結婚費用など)を明らかにしておけば、
少なくともこれらの金銭の給付については、後々相続人から訴えを起こされる心配はないだろう。
■きっちりと遺言を
「遺贈」とは、贈与相手と対象財産を遺言に明示して贈与する方法である。
自分が死んだ後に不倫相手やその子供に対し、財産を贈与するということを遺言の中に書くことになる。
自筆証書遺言には厳格な方式が要求されるので、公正証書による遺言をお勧めする。
遺言内容は秘密が保証されるので、
他の相続人をはばかって生前に明らかにできなかったことも書くことができる。
遺言による贈与の場合でも、不倫相手には配偶者が受けられるような税法上の控除がないため、
税理士と事前に相談しておく必要がある。
また相続人には、「遺留分」という最低限の相続分の保証があるので、
遺贈の結果、相続人の取り分が遺留分を下回ることになると、
一部を返還せよという訴訟を起こされる可能性が大である。
実子や配偶者の遺留分はそれぞれ全体の4分の1(法定相続分の2分の1)なので、遺贈をする際には、
遺留分を侵害しない範囲に収めるよう、注意が必要である。
■法律婚の妻との相続争い
公正証書遺言によって重婚的内縁関係の妻に多額の遺贈をした際に、
法律婚の妻が「遺贈は公序良俗に反する」と訴え、争いになることはしばしばある。
判例では、このような遺贈を有効とするケースと無効とするケースにわかれている。
例えば、男性が法律婚の妻との婚姻関係が破綻状態となった後に女性と知り合い、
約7年間同居し、この重婚的内縁関係の妻に全遺産の3分の1を遺贈した事案で、遺贈は不倫相手の生活の保全目的であり、
相続人の生活基盤を脅かすものではないと判断されている。(最高裁昭和61年11月20日)
このように、内縁の妻への遺贈が有効と認められるためには、下記のポイントが総合的に考慮される。
(1)遺贈の目的と財産の性質(生活の基盤に必要なものかどうか)
(2)相続人の生活に打撃をあたえないかどうか
(3)重婚的内縁関係が成立するにいたった経緯(夫婦関係の破綻の原因)
内縁の妻の生活を心配して遺贈する場合には、遺贈の目的や事情を記した手紙を残しておくようにしたい。