財産分与も、離婚の際に考えなければならない重要な要素である。
夫婦の一方が婚姻前から有する財産と婚姻中に自己名義で得た財産は「特有財産」(個人所有の財産)とされ(民法第762条第1項)、
夫婦といえども原則としてそれぞれ個人の所有・管理に属する(夫婦別産制)。
しかし、夫婦が共同生活をする中で、いずれに属するかが明らかでない財産が生じるのが通常であり、
そういう財産に関しては夫婦の「共有財産」と推定される(民法第762条第2項)。
この共有財産を清算するのが、離婚に伴う財産分与の目的である。夫婦間の特有財産と共有財産の区別に関しては、
離婚の際に、どの財産が財産分与の請求の対象になるのかをめぐってトラブルが生じることが多い。
例えば、夫婦が相談して購入した不動産で、夫婦共働きにより購入資金を捻出したという事情があるときは、
名義のいかんにかかわらず婚姻中に取得した財産と評価できるので、共有財産とみなされる。
したがって離婚時には、夫・妻それぞれの収入や生活実態に合わせて持分の比率を計算して、清算することになる。
専業主婦については、勤労収入がないから夫婦の財産形成に寄与していない、という考え方がかつてあった。
しかし専業主婦の場合でも、妻が家庭を支えていたおかげで子供の保育園の費用などが節約されており、
また夫が仕事に専念できたのだから、家事労働を資産評価するべきだという意見が強まってきている。
昨今では、共有財産のうち4割程度の持分を妻に認めるケースもある。
■財産分与の対象
清算の対象となる財産には、不動産・預金・退職金(在職中の給料の後払い的性格が強いため)などがある。
退職金は退職したときに支払われるものだから、将来退職したときに半分支払うといった取り決めがされる。
企業年金についても、積み立てが可能だったのは妻の貢献のおかげであり、また特に高齢者の離婚では、
妻の生活を支える扶養的な意味合いから、年金のうち毎月一定額を妻に支払うよう命じられるケースもある。
不動産の財産分与では、最近は不動産価格の下落のため売却してもローンが返済できない場合が多く、
マイナスの財産をどう分担するかという「負の財産分与」が深刻な問題となっている。
マイナスの部分も当然、財産分与の対象である。
夫が個人名義で住宅ローンを組んでいて、自宅を処分してなおローンが残る場合、妻の側にもいくらかの負担が求められる。
マイナスの財産分与が大きな足かせになって、離婚に踏み切ることができない夫婦も少なくない。
昨今のデフレは、夫婦関係も不良債権化させているのである。
なお、財産分与の処理の際に、慰謝料を加味することが多い。
慰謝料という名目で別途支払うのは不名誉だが、財産分与の金額に慰謝料相当分を上乗せすることでお互いの妥協を図るのである