夫婦関係を破綻させた原因の責任を負う配偶者を「有責配偶者」という。
不倫の当事者にしてみれば、どのような場合に有責配偶者から裁判上の離婚請求が認められるのか、関心があるだろう。
従前、最高裁判所は一貫して、有責配偶者からの離婚請求は、相手にとっては踏んだりけったりに等しいと述べ、
離婚請求を認めない立場をとってきた。
しかし、地方裁判所・高等裁判所レベルでは、長期の別居で事実上の離婚状態が続き、
形式的に戸籍上だけの関係として夫婦関係が維持されているような事例では、
有責配偶者からの離婚請求を認めるものが出ていた。
そして、ついに昭和62年9月2日の判決で、最高裁判所は有責配偶者からの離婚請求訴訟で、請求を認めるに至った。
その際、次の条件があげられた。
(1)別居が、夫婦の年齢や同居期間との対比において、相当長期間に及んでいること
(2)夫婦間に未成熟の子がいないこと
(3)相手方配偶者に対し、離婚が精神的・社会的・経済的に過酷な影響を与えないこと
この判決は、これらの条件を満たした場合には、有責配偶者からの離婚請求も認められることを示し、
事案の詳しい審理を控訴審に差し戻した。
最高裁の示した条件に沿って審理をやり直した結果、この事案は離婚後の生活費1000万円、
慰謝料1500万円で決着するに至った。
この事案は裁判当時、有責配偶者が不動産会社社長で支払能力が高いのに対し、遺棄された妻は無職で資産もなく、
婚姻期間約50年のうち、夫の不倫を契機に40年近い別居をしていたというものであったため、
高額な慰謝料・生活費の支払いが認められたものと思われる。
この判決以後、下級審では、最高裁の要件を緩和した形での運用が広まった。
すなわち、10年未満の別居でも離婚が認められているし、成年前の子供がいても経済的配慮がされていれば、
有責配偶者からの離婚請求を認める判決も出てきている。
また、慰謝料も、年齢が若ければ少額でも離婚が認められる。
このように、有責配偶者からの離婚請求が認められる可能性は非常に高くなってきており、条件の緩和傾向も続いている。
したがって、離婚される配偶者も、踏んだり蹴ったりにならないように自衛しておく必要がある。