■差押の実効性
強制執行による差押の対象になる財産は、判決や和解・調停で支払義務を負っている個人名義の財産に限られる。
相手が本人名義で不動産を持っていれば、登記簿を取り寄せて金銭的価値があるかどうか、
また預金があるなら、どの銀行に口座を持っているのかを申し立てた側が調査をする必要がある。
もし、不動産の名義が不自然に変更されていれば、
この名義変更が虚偽であることを立証する裁判を新たに起こさなければならない。
不動産に住宅ローンが残っていれば、ローンを控除したうえで余剰価値がなければ執行はできない。
銀行口座も残高がなければどうしようもない。
つまり、相手が銀行から預金を引き出してしまえば、差押はできないことになる。
勤務先からの給料を差し押さえることも可能だが、最低限の生活に必要とされる金額を超える部分しか差押はできない。
具体的には、税金・社会保険料を控除した手取額が28万円以下の場合は、その4分の3を超える部分。
手取り28万円以上では一律に21万を超える部分とされている。また、生活に必要な家財道具・電化製品などは差押はできない。
よほど高価なもの、美術品や宝飾品でもなければ差し押さえるものはない。
■和解という選択肢
仮に、夫の不倫相手の若い女性に対して裁判で慰謝料について勝訴判決を取ったとしても、
よほどのことがない限り、金銭的な満足はほとんど得られない可能性が高い。
「相手の実家が資産家で不動産を持っており、いずれ相続するはずだから、
その不動産を今のうちに差し押さえたい。」といった声もあるが、相続が終わって所有権が移らないと差押はできない。
そもそも、差押が予想されるのに不動産を相続する人がいるだろうか?
相続前に売却し、現金化して所在をわからないところに隠すだろう。
ただし、判決以前に、和解の席上でお金をもらうことを条件とする裁判上の「和解」を選択すれば、
目の前に積まれた現金を受け取ることができる。
弁護士や裁判官が当事者に和解を勧めることを、事件を楽に片付けたいからだと批判する傾向があるが、
強制執行が空振りに終わるリスクを考えると、現金と引き換えの和解は極めて合理的ではないか。