配偶者と不倫相手とを別れさせることができないなら、せめて代償を支払ってほしい、というのが人情。
法律においても、不倫相手のとった行動は「不法行為」だから慰謝料請求が可能である。
親の不倫で不利益をこうむった子供からの損害賠償請求ができないかという声もあるが、
過去の判例からみて、裁判で勝つ見込みは少ない。
もっとも、子供を前面に立てることで、強硬姿勢を見せつける効果は期待できるかもしれない。
請求は、話し合いで済まされることもあれば、こじれて裁判になる場合、あるいはいきなり裁判を起こすという方法もある。
話し合いをもつのがいいのか、裁判を起こした方がいいのかは、状況次第である。
裁判所を通じて訴状や呼出状が郵送されれば、普通は面食らってあわてるし、家族にも不審がられるだろう。
不倫相手が家族と同居している場合、裁判をちらつかせただけで言い値をはらうこともあるだろう。
不倫相手が支払う慰謝料の相場だが、あまり表沙汰になる事件ではないので、統計なども見当たらない。
しかし、公表されている判例を総合すると、不倫の期間や態様によって変化するとしても、
だいだい100万円から300万円の幅に納まっている。
なお、不倫は「共同不法行為」なので、不貞をした夫・妻が配偶者に慰謝料を支払うと、
その金額だけは不倫相手の支払義務は減額されることがある。
また、夫婦が離婚に至ったか、離婚せずに婚姻関係が続いているかによっても慰謝料の額は増減する。
■慰謝料を否定される場合
夫婦関係が破綻した後に不倫関係が始まった場合には、不倫相手に不法行為による慰謝料を請求することはできない。
そこで、「不倫が先か、破綻が先か」がしばしば重要な争点となる。実際、夫婦関係の破綻時期の認定は微妙な問題である。
夫婦が離婚に合意して別居を始めていた場合には、別居時点で夫婦関係が破綻したと考え、
その後の不倫は慰謝料の対象外となる可能性が高い。
しかし、破綻後も夫婦が同居しているような場合では、いつの時点で破綻したと考えるのだろうか?
少なくとも性的関係がある間は、破綻していないと評価される可能性が高い。
破綻時期が問題になったときは「最後に性交渉があった時期」などという非常にプライベートな問題についても、
法廷で説明を求められることがある。
ところで、夫の風俗通いで婚姻関係が破綻した場合、風俗嬢に対する慰謝料請求はできるのだろうか?
風俗嬢は、客の要望で商売として性行為をしているのであって、完全な自由意思で性的関係を結んでいるわけではない。
となれば、彼女が客の男性の家庭崩壊について責任を追及される筋合いはない。
夫が特定の風俗嬢に入れ込んで家庭を壊したとしても、
風俗嬢が積極的に家庭を壊すために夫を勧誘したわけでなければ、慰謝料請求は無理だろう。
■慰謝料請求訴訟と強制執行
不倫相手に対する慰謝料の請求訴訟は、地方裁判所に訴えを起こ必要があるので、かなりの手間と時間がかかる。
配偶者に対する慰謝料請求は、家庭裁判所における離婚調停や離婚裁判に付帯して行えばいいので、
離婚の手続きに付加する程度の手間に過ぎない(それでも証拠を保全するコストが必要だが。)。
他方、不倫相手に対する慰謝料請求は、まったくの第三者に対して行う一つの裁判なので、離婚調停に付加することはできない。
しかも仮にこれらの裁判に勝ったとしても、勝訴判決それ自体は「絵に描いた餅」であり、
小切手のように銀行に持っていけば換金できるというものではない。
たとえば、裁判の結果「AはBに対して、100万円支払え」という内容の判決が下りたとする。
BがAにこの判決を見せて「払ってください。」と言って100万円を払ってもらえれば、問題はない。
しかし、任意に払ってくれる相手なら判決が下りる前に和解しているはず。
相手が支払ってくれない場合、裁判所を通じて、判決内容を実現するために、差押などの強制執行をしてもうことになる。
強制執行は、裁判とは別の手続き。誤解されている方も多いが、裁判が終わった後に自動的に強制執行の手続きに移るわけではない。
判決(和解調書・調停調書を含む。)の謄本にさまざまな必要書類を付け加え、
裁判所に新たに手続きの申立てをしなければいけない。