当事者に法律婚の配偶者がいない内縁関係では、婚姻届さえ出せば、すぐに法律婚の夫婦になることができる。
したがって、単純な内縁関係の保護については、利害が対立する関係者の数はそれほど多くない。
ところが、一方または双方に法律婚の配偶者がいる重婚的内縁関係では、
重婚的内縁の妻や夫を法律婚の妻や夫と同様に保護することは、
法律婚の妻や夫の立場・権利(相続など)に少なからず影響を与える。
昭和26年に出された厚生省(当時)の解釈例規では、
「重婚的内縁の妻は、各種法律に規定された社会保障を得る地位にある“内縁の妻”に当たらない」とされていた。
しかし、法律婚が完全に形骸化している場合の不都合を無視することができなくなり、
ようやく昭和38年に内閣法制局は「法律婚が実体を失っている場合には、
重婚的内縁の配偶者に各種社会保障の受給権を認める」という見解に改め、
重婚的内縁関係も日陰の身分から少しは日の当たるようになった。
■法律婚が実体を失っている場合の例
重婚的内縁関係の妻が社会保障の対象となるには、法律婚が実体を失っていることが必要となるわけだが、
一体どのようなときにそのように評価されるのだろうか?
内閣法制局は以下を典型例としてあげている。
(1)離婚の合意に基づいて夫婦の共同生活が廃止された場合
(2)一方的に開始された別居であっても、その状態が長期化して固定した場合
これらの条件をみたしていれば、法律上の妻がいても内縁の妻として保護を受ける可能性がある。
判例では、住民票の記載(未届けの妻・夫といった記載)や健康保険の被扶養者の記載、勤務先への扶養家族の届出などが、
法律上の配偶者でなく内縁の配偶者になっているときに、法律婚が実体を失っていると評価する傾向がある。
逆に、法律婚の配偶者への仕送りや定期的な面会があれば、法律婚の実体が残っているとされる。
なお、純然たる子供の養育費を仕送りしているだけならば、法律婚の実体が残っているとはいえないと判断されているので、
養育費の支払いに躊躇する必要はない。