Q.
ある日、電話で「奥さん、ワープロ検定試験のための通信講座を受講しませんか。通信講座のための費用は70万円かかりますが、
商工会議所のワープロ検定試験に合格すれば、ワープロを扱う仕事を回しますので、すぐに元はとれるようになりますよ。」と勧誘され、
「これなら資格も取れて仕事も持つことができる。」と思い、70万円でワープロと通信講座の契約をしました。
検定試験はそれほど難しくなく、すぐに合格することができました。しかし、その後、合格したにもかかわらず、
「ワープロを使った仕事」を紹介してくれません。どうしたらいいでしょうか。
A.
このケースは、自宅で手軽にできる作業でかなりの収入が得られる仕事であるかのように説明して、
その仕事をするための技能を修得するのに必要な機械類を売りつける悪質商法の例です。
このような商法は「内職商法」と呼ばれる悪質商法ですが、最近では、このようなワープロ入力の仕事を口実にするものや、
コンピューターの表計算ソフトやデータベースソフトのデータ処理の仕事や、
インターネットのホームページ制作などインターネットに関連付けた仕事を口実にするものも増えています。「SOHO」などと言って、
自宅での仕事がもてはやされている風潮がありますので、そこをねらった悪質商法が台頭しています。
このケースでは、電話でワープロ検定の通信講座の受講の勧誘していますので、その勧誘の電話で受講等を承諾したり、
その後に業者から送られてきた書類等を郵送するなどによって返送することで受講契約を承諾している場合には、
特定商取引法の規制する電話勧誘販売に該当します。この場合には、契約書を受領してから8日以内にクーリング・オフが可能です。
しかし、このケースのような「内職商法」の場合、その多くは実際に講座の受講や指導が終了した後に、
勧誘の当初に約束した仕事を全く紹介してこなかったり、仕事を紹介してきても、いろいろとクレームをつけて、
被害者の行なった仕事の質や内容が基準に達していないというような理由で、完成させた製品や仕事を引き取らず、
賃金や代金を支払わないという業者が少なくありません。そのため業者の不正な態度に気付く頃には、
8日間のクーリング・オフの期間が過ぎてしまっていて、クーリング・オフができない場合も多くなっています。
そのため、特定商取引法はこのような内職商法や着物や羽毛布団などのモニター商法を対象として、
「業務提供誘引販売取引」という取引類型を設けて、各種の規制を加えています。
すなわち、業務提供誘引販売取引では、20日間のクーリング・オフが認められますし、
紹介したり斡旋する仕事の内容や仕事の紹介等に伴って必要とされる消費者の負担(特定負担)の内容についても、
契約に先立って書面に記載して消費者に交付することが義務付けられたり、契約を締結した場合にも、
業者はこれらの内容を詳しく契約書面に記載して消費者に交付する義務が課せられています。
また、誇大広告等も禁止されています。したがって、このケースの場合、電話勧誘販売に該当しない場合であっても、
特定商取引法の定める業務提供誘引販売取引には該当しますので、
契約書面を受領してから20日以内であればクーリング・オフが可能です。
また、特定商取引法が前述した記載事項の書面交付義務を規定している趣旨から、民法上も業者が仕事の紹介や斡旋をする義務に違反して、
満足に仕事を提供しない場合には、そのことを理由として特定負担の契約(講座の受講契約や商品の購入契約)
を解除することもできると解されます。
したがって、このケースの場合には、仕事を紹介しないことを理由にして、受講契約を解除することもできると思われます。
また、悪質業者は、最初から仕事を回すつもりはないか、あるいは仕事を回しても実際に賃金や代金を支払うつもりがないので、
そのような事実を隠して勧誘することは詐欺と言っても過言ではありません。したがって、このような場合には、
民法第96条第2項により、業者との受講契約や仕事をするために購入させられた機械類の売買契約を取消して、
支払った代金の返還請求ができます。
また、虚偽や不実のことを告げて契約させる行為は違法ですので、業者には不法行為(民法第709条)が成立し、
消費者が支払った代金相当額の損害賠償請求もできます。
いずれにしても、契約をしたばかりであれば、まずはクーリング・オフの通知を書面で出すことが必要ですし、
期間が経過している場合でもあきらめないことです。